荷重及び構造内部の力
（1）膜の内部の力
膜として使われる材料を膜材料と呼ぶことがある。普通の膜材料は、ポリエステル繊維やガラス繊維の糸で織られた平織物に、柔軟な合成樹脂（プラスチック）あるいは合成ゴムをコーティングしたものである。この平織物のことは基布とも呼ばれる。
このような膜材料つまり基布にコーティングをした柔軟なシート状材料は、日常的にはキャンバス、帆布などと呼ばれることが多い。
前項に述べた荷重が膜に作用すると、膜は変形しようとする。この変形で膜は伸びようとする。この伸びを受けて、膜の内部の基布が主に抵抗し、この基布に引張力が生じる。
この引張力は、基布が平織物の場合、経糸（たて糸と読む）の張力及び緯糸（よこ糸と読む）の張力の集まりである。過大な荷重が作用して膜に大きな伸びが生じ、織糸に大きな張力が生じて糸が破断すると膜は損傷することになる。
このように、荷重を受けて膜に引張力が生じるのが普通であるが、膜の形態あるいは変形の大きさによっては膜に圧縮力が生じようとする場合がある。膜材料は柔軟であるから、膜に圧縮力が作用し始めると膜にはしわが生じることになる。膜に生じるしわは第1に外観上好ましくない。膜の初期張力の大きさや裁断図などを工夫することによって、膜にしわが生じないように注意しなければならない。
さて、膜の内部の力とは、上述した膜の引張力のことである。膜の設計では、この引張力のかわりに、強度計算や材料強度の評価に有効である応力（あるいは膜応力）が使われる。この膜の応力は、膜の単位幅あたりの引張力として定義される。たとえば応力5‡sf/‡p（49N/‡p）とは幅１‡pの断面に作用する５‡sf（49N）の引張力である。また応力5‡sf/３‡p（147N/3‡p）とは幅３‡pの断面に作用する15‡sf（147N）の引張力である。
なお、3.1.1 の（1）の初期張力で述べた、膜に初期に導入される引張力は、このような応力を用いた表現で｢初期応力｣と呼ばれることもある。
基布が平織物の場合は、このような膜の応力には、たて糸方向の応力とよこ糸方向の応力があることになる。荷重を受ける前はこれら二つの方向に初期応力が生じている。さらに、荷重を受けると膜の応力は、たて糸方向とよこ糸方向に同時に変化して生じることになる。これら二つの方向の応力は、一般にはそれぞれ大きさが異なる。テント設計では、荷重を受けて生じる二つの方向の応力のうち、より大きい値をもつ応力に注意することが大切である。
（2）骨組構造の内部の力
骨組構造への荷重が作用すると、骨組構造を構成する柱や梁の各部材にはその荷重に抵抗する力が作用する。そして各部材は変形してその内部にはその変形に抵抗する力が生じる。その部材内部の力について次に述べる。
骨組構造を構成する部材として、Ｉ型やＨ型鋼などの型鋼、鋼管、鉄骨組立て部材など使用される。これらの部材の内部に生じる力を説明するために、図3.1-6に示すように、各種の部材を理想的に矩形断面の部材とみなすことにする。
部材断面には曲げモーメント（M）、せん断力（F）、そして軸力（P）が作用する。荷重に抵抗した結果生じるこれらの力及び曲げモーメントは称して断面力と呼ばれることがある。これらの力及び曲げモーメントはそれぞれ異なる変形に対応する。それを説明するために、断面力が作用する断面と小さな長さをもつ部材部分をとり出して、その変形を調べる。
（a）は曲げモーメントにより生じる変形である。図のＮＮで表わした軸線は、曲げモーメントが作用しても伸縮が生じない部位を表わしており、この部材軸は中性軸と呼ばれる。この図で、中性軸より上側の部分では圧縮、下側の部分では伸長が生じている。
（b）はせん断力により生じる変形で、ずれ変形である。これはせん断変形と呼ばれる。
同図（c）は軸力により生じる変形で、この図では部材断面全体が一様に伸長することを示している。この場合軸力は軸引張力とも呼ばれる。逆に、この伸長が圧縮であれば、軸力は軸圧縮力と呼ばれる。
このように、同図（a）、（b）、（c）の変形は、曲げモーメント、せん断力、軸力が図示と逆方向に作用する場合は、反対の変形になる。
以上のような、曲げモーメント、せん断力及び軸力が骨組構造の内部の力である。これらの力やモーメントは、3.2.1（3）で述べるように、部材断面の応力（垂直応力とせん断応力）の集まりである。
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